愛着障害

精神科医の岡田尊司氏が提唱。
「境界性パーソナリティ障害や摂食障害、うつや不安障害、さまざまな依存症に苦しむ人が急増しているが、
それらの障害の根底に母親との不安定な愛着がしばしばかかわっている」。
虐待やネグレクト、両親との死別や離婚によるトラウマだけでなく、
社会的に活躍していた多忙な母親や甲斐甲斐しく世話をした母親など、
一見すると問題のない親子関係においても安定した愛着を形成できずに子どもが育ってしまう場合がある。

子どもは産まれた瞬間、もしくは妊娠中から、母親(あるいはその他の養育者)との愛着を育み、
「基本的安心感」と「基本的信頼感」を獲得していく。
「いざという時に頼ることができ、守ってもらえる居場所であり、そこを安心の拠り所、
心の支えとすることのできる存在」として、養育者を「安全基地」と考えるようになる。
安全感の保証、心を否定することなく子どもの気持ちに寄り添う共感性、子どもが求めることに対する応答性、
態度や言動の安定性や一貫性、子どもを追い詰めない、養育者が自らの考えや行動を顧みることができるなど、
安定した愛着を育むには、いくつかの重要なポイントがある。
子どもの気持ちを理解することができない、あるいは子どもが何かを求めてきても応えようとしない、
求めているのとは見当違いのことを押し付ける、
要するに「共感的応答」ができない養育者は子どもの「安全基地」となることは難しくなる。
さらに、「わかってもらった」という安心感や満足感を与え、他者に対する肯定的な認識を育てるとともに、
共感的な言語化により子どもの自己理解を助けることで、子どもが他者に共感的応答ができるようになる。
健全な愛着を育むことなく子ども時代を過ごしてしまうと、子ども自身が自分の価値を見出せず、
自己否定を抱えやすい。それから逃れるために、理想的、完璧なものを求める傾向が強くなり、
完璧な自分ならば、親も周囲も認め、愛してくれるという思いに縛られ、
無理をしてでも完璧であろうと苦悩を繰り返す。
しかし、完璧な人間であることは不可能で、そのような人間であり続けようとすることでやがて疲れ果て、
不完全な自分を嫌い、自己否定の呪縛から逃れられなくなるのだ。

◆愛着スタイルの分類
・安定型
 健全な愛着(人と人の間の親密さを表現しようとする行動)を獲得。
 自分が信頼している人が、自分を愛し続けてくれることを確信しており、愛情を失ってしまうとか、
 嫌われてしまうと無用に悩むことがない。困った時に気軽に相談し、必要に応じ助けを求めることができる。
・回避型
 親密な信頼関係を避け、感情や情緒を自動的に抑える傾向が強い。自己表現力が育ちにくく、
 会話の微妙なニュアンスを正確に理解することが苦手で、家族やパートナーが苦しんでいる状況でも、
 それを自分の痛みのように共感することが難しい。
 また、共感的な脳の発達が抑えられた結果、誰かに助けを求められると怒りの反応を示すことがある。
 職業的な能力においては、一流の技術を獲得することも多いのが回避型の特徴であるが、
 面倒なことを後回しにし、対人関係と同様に目を逸らす。
 人に頼られることや責任を担うことは厄介事であり、直面すると怒りや動揺となって表れやすい。
・不安型
 表情の変化に敏感で、素早く読み取るものの、怒りの表情と誤解することが多い。
 「受け入れられているか」「嫌われていないか」を重視し、愛着不安の表れとして過剰な気遣いを繰り返す。
 「愛されたい」と強く望み、拒絶されることを極端に恐れるあまり、相手に迎合してしまう傾向が強い。
 しかし、従属的なタイプばかりではなく、支配的なタイプの人でも愛着不安は見られ、
 猜疑心や嫉妬心により他者を非難することもしばしば起こる。
 また、自分自身を愛される資格がないと思い込み、それ故に特定のパートナーを常に求め、
 恋愛モードになりやすいのも特徴。
 パートナーと距離が保たれている間は、サービス精神旺盛で心地よい接し方をするが、
 親密になるほど自分とパートナーとの境界線が曖昧になり、依存対象と見なしてしまいがちである。
 不満や苦痛を訴え、激しい言動を繰り返す背景には、「自分を疎かにされた」という被害感に苛まれている。
 さらに、養育者やパートナーに対し、肯定的な態度と否定的な態度が強く併存する両価的な傾向が強い。
 期待や賞賛に対しても、嬉しい反面、期待を裏切らないことに神経をすり減らし、
 プレッシャーやストレスを抱えやすい。
・混乱型
 愛着回避と愛着不安がいずれも強い場合、混乱型(恐れ・回避型)と呼ばれる。
 対人関係を避けようとする面と、他者の反応に敏感で見捨てられ不安が強い面を併せ持つことで、
 対人関係はより錯綜し不安定なものになる。
 一人でいることは不安で人と仲良くしたいと思うが、親密になることで強いストレスに晒される。
 他者を信じたいが信じきれないジレンマがあり、傷つきやすく被害的認知に陥りやすい。
 うまく自己開示できないが、養育者やパートナーに頼りたい気持ちも強い混乱型は、
 養育者との愛着の傷を未解決のまま引きずり続けている場合が多い。
 些細なきっかけで不安定な状況がぶり返し、愛着不安が高まり混乱状態に陥る。
 情緒的に不安定になるだけなく、被害妄想などの精神病状態や身体的症状を伴うこともある。
 自分に対する周囲の評価に敏感で、蔑ろにされたと感じると激しい怒りの感情が発現。
 嫌われると分かっていても、自分の受けた傷に心奪われ、批判や他罰的な態度をとることが多い。

◆愛着障害の治療
心理療法や認知行動療法では効果が得られにくく、逆に悪化してしまうこともある。
自我機能が脆弱で、客観的に自己を振り返るのは困難を極める。また、患者に心中を話させ、
それに対し共感ではなく解釈を与える精神分析は、不安定な愛着しかもたいない者にとって、
冷たい刃で切り刻まれ、愚弄されたように感じるのも当然である。

◆愛着障害の克服
◇援助者との協力
愛着は親との交流で育まれるが、そのプロセスで躓いたのが愛着障害だ。
親との関係を改善することが、もっとも望ましいのは言うまでもない。
しかし、親も不安定な愛着の問題を抱えていることも多い。
また、改善していこうと考える親も、「子どもの問題」と見なしがちで、
「安全基地」として機能することは難しい場合が多い。

愛着障害の修復過程には、幼い頃の状態や問題を順次再現しながら、
幼児期、児童期、思春期、青年期と段階的に成長を遂げていくことがしばしば見受けられる。
幼い時の心理状況が再現され、その時得られなかった愛情を今与えてもらうことで、傷が癒されていく。
子どものようにわがままを言ったりする時期に、しっかり付き合うことで次第に安定していく。
しかし、現実には親が子どもに全ての関心や愛情を注ぎ込んで向き合うことは、相当難しい。
そうなると、愛着の傷を癒すどころか、逆に傷つけてしまうことになりかねない。
パートナーなど身近な第三者がその役割を担うことが自然だが、
場合によっては治療者や教師、宗教的指導者などを援助者とすることになる。
修復の過程で、支えてくれる人に甘えようとする一方、反抗的な行動が目立つ時期がある。
自分をもっとよく見てほしいと思い、相手の関心が不十分だと腹を立てる。
そのくせ自分から素直に甘えなくなり、険のある態度をとり、援助者に不愉快な思いをさせようとする。
しかし、この時期が回復への過程において最も重要な局面と言える。
この時、援助者が否定的な反応を示すと元の木阿弥になってしまう。
この反抗的な態度には、もっと愛情を求めたいのを我慢していることや、
自分への関心の不満に由来する段階と、援助者と距離を取ろうとしている段階がある。
後者において、依存している愛着対象から分離と自立を遂げる大きな課題に取り組んでいるのである。

安全基地を確保し、幼少期の不足を取り戻すプロセスとは別に、言葉を介した認知的なプロセスも重要。
子どもの頃に傷ついた体験をじっくり語りつくし、ネガティブな情動とともに吐き出すことは必須である。
その語る言葉を一切否定せず、丸ごと受け止めてくれる援助者の存在が、回復へのステップになる。
家族やパートナーが一生付き合う覚悟でこのプロセスに関わることは、愛着の修復には大きな力になるだろう。

過去の傷に徹底的に向き合うことを続けると、次第に楽しかった経験や養育者への感謝が湧いてくるようになる。
「全てが悪い」という全否定から、トータルな視点で親や養育者を赦せる状態になる。
親を愛し、求めているからこそ、憎みや悲しみの気持ちが生まれたことに気づくのだ。
親と和解できた時、不思議と自分自身とも和解でき、過度な自己否定や過去の呪縛から解放される。

◇セルフプロデュース
親やパートナーの保護や援助が期待できない場合、
愛着障害を克服する究極の方法は「自分が自分の親になる」ということである。
苦しい時や躓いた時、自分の親として自分にどうアドバイスするのかを考える。
「自分の中の親」と相談し、共感してもらい、自暴自棄な考えや否定的な気分に陥るのを防ぐのだ。
また、自分が親代わりとなって、後輩や若い人たちを育てることも効果を上げることがある。
自分自身が「理想の親」となり、過去のわだかまりを浄化していく。
この場合、後輩や自分より若い人を安全基地とし、アイデンティティを獲得。
相手に従属せず、しかし必要なときに助けを求められる真の自立に向かうのが目的だ。
自立とは、周囲に認められ受け入れられる過程であり、
自分に対して「これでいいんだ」と納得しながら自己有用感と自信を獲得する過程とも言える。
両方のプロセスが絡み合いながら進んでいくことが重要。
そのために、社会的、職業的な役割を持ち、その枠組みに守られながら心の安定を得ることも一つの方法と言える。

参考・引用
  『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』 『母という病』 岡田尊司 著